「TPPをまとめようとしたとき、アメリカの言いなりになるなと野党に批判された。今度は、アメリカの大統領候補が両方とも反対しているのになぜ日本がと批判される」官房長官は言う。
だからこそ日本がリーダーシップを取るべきだと続けた。
このことは、一国の国際行動と国内紛争との微妙な関係を示唆しているように思える。
もともと僕は、政府が一つの産業を保護するのはあまりいい結果を生まないと考えている。急激な外力に対して一時的な保護をするのはいいが、長く続くとそれが当たり前になって、返って脆弱化させてしまう。保護は、することよりも外すことの方が難しいのだ。教育に似ている。
貿易というものは、全体的には自由化した方がいいのだが、各国がそれぞれにもつ弱い産業については、どうしても保護主義に陥る。それを包括的なシステムによって解決しようとするのがTPPであるが、民主主義の選挙という現実においては、国内の反対勢力を抑えることがなかなか難しい。イギリスのEU離脱も、難民という政治的問題があったにせよ、似たような背景があった。
TPPにもまた政治的問題が絡んでいるようだ。
以前僕も参加していた財界人の会議で「アジアの時代」というテーマを予定していたら「アジア・太平洋の時代」に変わった。これはアメリカのプレゼンス(存在)を重視するという政治的意図が働いたからである。
現在、「アジア」という枠組みには、中国の力が強く作用する。
逆に「太平洋」という枠組みには、南シナ海、東シナ海などに拡張する「中国に対する」という政治的意図があるようだ。しかし国内の現実においては、どの国でも特定の産業の保護以上の問題ではない。
つまり国内紛争と国際紛争が葛藤しているのだ。
考えてみれば戦争というものも、一国の利害による国際紛争という面ばかりでなく、国内紛争の力が働いている場合が多いのではないか。