都市力と風土力

建築からの文化論を主に、時事評論を加える。

ドナルド勝利は知識人の敗北か

米大統領選にドナルド氏が勝利して、あるテレビのコメンテイターから「自分も含めて知識人の敗北である」という発言が聞かれた。

たしかにこれまで、トランプ氏は、無知と言われ、ホラ吹きと言われ、大衆迎合と言われ、その支持者は、白人の労働者、貧困層、良い教育を受けていない人、中南部すなわち田舎の人として位置づけられてきた。

彼の勝利の裏側には、テレビや新聞など、都会的なメデイアに対する反感があったことはたしかだろう。

しかし僕は、その都会的なメディアが、本当の意味での知識人としての役割を果たしていたか、ということになると、はなはだ疑問であると思う。

アメリカでも、日本でも、現在の新聞、雑誌、テレビなどのメディアに、本当の「知」が存在するようには思えないのだ。そこに現れている論評は、きわめて表層的な知であって、むしろ情報に近く、建前に堕している。むしろそちらの方が大衆迎合ではないだろうか。

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人間というものの深層は、今のメディアに現れるような表面的、概念的なものではなく、民族、言語、宗教、文化といったさまざまな因子が渾然一体となって蠢くマグマのような情念の運動体である。単に、良い教育を受けているかいないか、白人か有色人か、富裕層貧困層か、といった区別で片付けられるものではない。

僕は今回の大統領選には「知識人=クリントン・非知識人=トランプ」という図式、あるいは知識人と大衆の乖離という評価では結論づけられないものがあるように思う。

あえて言うとすれば、知識人の敗北ではなく、表層知識人の敗北であろう。