フィデロ・カストロが死んだ。
アメリカとの国交正常化の後であった。
生き延びた英雄であり、生き延びた20世紀人でもある。
一般に、革命のヒーローは政権の座に着くと、それまでの盟友を裏切り、有能な部下も粛清して、醜いほど権力の座にしがみつく。革命とは権力とはそういうものだ、と思わざるをえない例を数多く見てきた。しかし彼の人気は衰えなかった。
人間性というものだろう。
アメリカを憎んだが、野球を愛した。戦後アメリカの属国のようになった日本を嫌わず、むしろ大国に挑んだことを評価した。
とはいえ、スターリンも、毛沢東も、金日成も、世界のメディアに批判されたのは死後のことである。カストロにも、そういう独裁政治家としての運命がまっているかもしれない。
それでもわれわれの世代には、カストロとゲバラは英雄のままであり続けて欲しいという願望がある。アメリカという国家と、資本主義という怪物に抵抗し続けた、20世紀の英雄像だ。それだけこの二つの力が圧倒的でかつ矛盾に満ちた世紀でもあったのだ。日本もこれに挑戦したが、やり方も結果も異なっていた。
20世の歴史は、この二つの力に対する抵抗が現実政治としては敗北することを示している。しかし21世紀、その抵抗の魂は残っていた。彼にとってはおそらく、勝敗が問題なのではなく、その魂のあり方が問題なのだろう。