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都市力と風土力

建築からの文化論を主に、時事評論を加える。

世界情勢と風土

シリア情勢は混乱終息に向かっているのだろうか。

熱砂の中、黒覆面をした男が、オレンジ色の服を着せられ後ろ手に縛られて座らされた日本人ジャーナリストの首に、キラキラと光るナイフを突きつける映像は、平和慣れした日本人にとって、忘れがたい記憶となっている。

イスラム国(IS)をめぐる紛争は、ヨーロッパ市民にとってはテロリズムであり、シリアやイラクにとっては内戦であり、当のイスラム国と、トルコ、ロシア、アメリカ、フランス、イギリス、サウジアラビアカタールなどにとっては、いわゆる戦争である。しかもその原因としては、イスラム教とユダヤ教キリスト教の対立、あるいはイスラム教内部のスンニ派シーア派の対立といった宗教上の問題、クルド族をめぐる民族問題、また1916年のサイクス・ピコ協定による植民地分割と、イスラエル建国に絡む米ソ冷戦といった、欧米の中東支配に対する長期的な怨恨があげられている。

これまでの戦争のような、領土をめぐる国家利益の衝突ではなく、より深層に根ざした、歴史的、文化的な紛争となっているのだ。

 

長いあいだ建築と風土の関係を研究してきた僕は、その紛争の背景に広がる「砂漠」に、強い風土の力があることを感じる。さらに建築の専門家としては、荒漠とした砂漠の景観とは対照的な、ドバイというきらびやかな超高層都市の幻影も感じる。アラブ首長国連邦を形成する一国家として突然のように出現したこの都市は、石油資本を背景にして驚異的な成長を続け、世界的な金融の中心となっている。長期にわたる中東の紛争には「砂漠と石油」という二つの風土の力がはたらいているのだ。

歴史的に見て、イギリスも、フランスも、アメリカも、ソビエト=ロシアも、これまでの中東における紛争に勝利したとはいいがたい。そこには、いわゆる先進国とは異なる風土の力が作用しているからではないか。

結果として、ヨーロッパ各国は、大量の難民が流入するという問題に直面することとなった。ただでさえ、ギリシャなど債務国の危機を抱えて揺れ動いていたEUは、その存続を危ぶまれる状況に陥った。イギリスは離脱を国民投票に委ねて離脱を選択し、フランスはテロの対応に追われ、もっとも強い財政をもつドイツでさえメルケル首相のリーダーシップに影が差している。そしてどの国でも、外国人排除の論理を掲げる民族主義政党が大きな支持を獲得しつつある。

ヨーロッパ諸国に、中東からの難民が受け入れられ新たな国民となることは、国家と国民の関係が変化することであり、国家と民族と文化のバランスが崩れることである。民族主義者、排他主義者は、その混沌に耐えられない。そして筆者は、この移民問題の背景にも風土の問題を強く感じる。ユーラシア大陸の西側における、南の「砂漠の民」が、北の「森の都市」に流入するのであり、そこに大きな文化的軋轢が予想されるのだ。

さらにアメリカでは、トランプというこれまでにないタイプのポピュリスト的な大統領が誕生する。アメリカは世界の警察となるよりもアメリカ国内の問題を優先すべきだというモンロー主義的な国民の本音が見えている。そこにも、ユーラシアから遠く離れた大陸という風土の力がはたらいている。

 

われわれ現代人にとって「風土」とは何なのか。その「力」はどういった性質をもつのか。原点に帰って考える必要があるように思える。