ラスコーの洞窟壁画の展示を見に行った。
細長い洞窟の中に、馬、鹿、牛など、身近な動物たちがダイナミックなパノラマとなって展開される。もちろん写真のような写実性ではなく、ある特徴を誇張する筆法だが、生き生きとした動きをとらえる描写力に感心せざるを得ない。
しかし僕の興味を引いたのは、牛などの足元に描かれた、格子状の模様である。
都市と建築の根源的な歴史を考えてきた者に、地面に描かれた直角格子は重要な意味を投げかける。人間にとって、平面上の格子は、都市や建築における空間秩序のもっとも基本的な形であるからだ。数学的にも、直角座標は平面上の位置を示すもっとも有効な方法である。
考古学的には、意味が特定されていないようだが、そこに描かれた動物たちが、すべて人間にとって危険な種ではなく、比較的おとなしい、家畜的な種であることからも、もちろん遊牧や放牧以前の、狩猟採集の社会ではあるが、何らかの、場所や、領域や、所有や、所属や、といった意味をもつ、空間的な秩序の記号性を感じるのだ。
都市や建築の最古の遺跡が現れるのは、ずっと後世のことだ。
しかしここに、ホモ・サピエンスの歴程における、それに近い空間概念の萌芽を示す象徴が見られるのではないだろうか。