都市力と風土力

建築からの文化論を主に、時事評論を加える。

ベトナム戦争と風土力

僕の青春時代は、ベトナム戦争の期間とほぼ同時期であった。

われわれの政治意識の背景には常に、日本の物質的繁栄とベトナムの惨劇が存在したのだ。あの大学紛争というものも、この戦争と密接につながっていた。

第一次世界大戦以来、最大の軍事強国として世界に君臨してきたアメリカが、ベトナム戦争には敗れたのである。圧倒的な文明力と軍事力は、なぜ未発展の小国に敗れたのか。

評価の高い、D・ハルバースタムの著書『ベスト・アンド・ブライテスト』では、ケネディ政権とジョンソン政権において作戦を担当した、ロバート・マクナマラ、ウォルト・ロストウ、マクジョージ・バンディなどを中心とする東部エスタブリッシュメントの机上の理論と、ベトナムの密林における混沌とした現実との「乖離」すなわち大きな隔たりが強調されている。ハーバード大学やイェール大学の「最良で最聡明」とされる頭脳が駆使したコンピューターは、東南アジアのジャングルの中に潜むゲリラ兵の行動を計算できなかったのだ。

「北爆」という戦法は、上空の文明が地上の人間を、蟻を踏み潰すように殲滅する、きわめて非人道的なものであったが、最終的には、北ベトナム軍が勝利し、米軍はサイゴンを捨てて、あたふたと本国に帰還せざるをえなかった。

僕はこれを「文明の風土に対する敗北」であると受け止めた。

西欧近代文明を体現するアメリカ軍は、ベトナムのジャングル(熱帯雨林)という風土に負けたのではないか。

工業化構法という先端的技術的な研究で博士の学位を取り、組織的な設計事務所で高層ビルなどを設計していたのだが、方向を百八十度転換して、風土と構法の関係を研究し、それを文化論につなげていくという道を進むことになった。ベトナム戦争の帰結と同調していたように思える。

 

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