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都市力と風土力

建築からの文化論を主に、時事評論を加える。

積み上げる文化・組み立てる文化

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四年生のときに大学は紛争となり、バリケード封鎖の中の卒業。そのまま大学院に進んだのだが、設計と研究とどちらの道に進むべきかで大いに迷い、迷いながら哲学や評論を読んだ。すでに両親は亡く姉たちは嫁に行って天涯孤独。

紛争のあとの虚脱感もあったのだろう。無計画で無鉄砲な旅に出た。

四ヶ月にわたり、ヨーロッパ各地をヒッチハイクでまわったのだ。アウトバーンの発達しているドイツを中心に、スイス、オーストリアデンマーク、スエーデン、フィンランド、オランダ、ベルギー、フランスとまわり、最後の一ヶ月はイギリスのブライトンという街で英語の勉強をした。主としてユースホステルを利用したが、ドライバーの家に泊めてもらったこともあり、駅舎で夜を明かしたこともある。パトカーに捕まったり、ヤクザに追いかけられたり、ホモに狙われたりしたこともある。皿洗いこそしなかったが、金もなく、予定もない、放浪の旅。ろくな食事を取らなかったので、体重は落ち、ベルトがゆるくなってくる。

腹を空かせた犬のように、街の路地をウロウロと彷徨いながら、石の重みを感じていた。ともすれば押しつぶされそうになる建築の重みであり、時間の重みでもある。角が擦れて丸くなった石畳の上を通り過ぎて行った人の量だけの時間の堆積である。

そして考えた。ここでは、その都市と建築が石や煉瓦を積み上げてつくるように、その文化もまた過去から現在へと積み上げられているのではないか。

われわれが中学で学ぶ、ユークリッドピタゴラスアルキメデスといった科学者は古代ギリシャの人であり、コペルニクスガリレイニュートンの発見は彼らの思考の上に乗っている。デカルトやカントやヘーゲルの哲学も、ソクラテスプラトンアリストテレスの思考の上に乗っている。考えてみれば、マルクス主義者の好きな弁証法というものも、積み上げの論理ではないか。

ヨーロッパでは、都市や建築が積み上げられているように、その文化も積み上げられているのだ。

それに対して日本文化は、その建築が木造の組み立て式であるように、組み立て組み替えを繰り返しているのではないか。

過去には中国から来たものを日本流に組み立て組み替え、近年には欧米から来たものを日本流に組み立て組み替えてきた。政治学者の丸山真男が「日本には思想の葛藤と蓄積がなく、様々な外来思想が同居している」(『日本の思想』)としたように、西洋の思想が長期的、論理的、構築的であるのに対して、日本の思想は短期的、情緒的、雑居的なのだ。ヨーロッパの文化は「積み上げる文化」であり、日本の文化は「組み立てる文化」である。

日本に帰って、設計事務所に勤めながら、この体験と思考を『建築へ向かう旅』(冬樹社)という著書として出版した。「積み上げる文化・組み立てる文化」というサブタイトルをつける。つまり青春の放浪記であると同時に、建築論でもあり文化論でもあった。

この本は、きわめて好評で、ほとんどの新聞と雑誌に書評が掲載され、僕はものを書く人間になった。

 

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