都市力と風土力

建築からの文化論を主に、時事評論を加える。

記憶と名前

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NHKの朝のドラマ「ひよっこ」で、沢村一樹が記憶喪失の父親を演じている。

子供のころ、記憶を喪失することは怖いなと思ったのだが、不思議だったのは、映画やドラマに登場する主人公が、自分の名前や家族や職業は覚えていないのに、話はできるのだ。つまり一般日常の言葉は記憶しているのである。インチキだと思ったが、だんだん、記憶喪失とはそういうものだということが分かってきた。

人間にとって自分の名前や家族や職業は重要ではないのだろうか。

そうではない。人間の記憶は「層」をなしていて、人、男、女などが深層にあり、怖い、優しい、大きい、小さい、などが中層にあり、個人名は表層にあるのだろう。また人、男、女などは先天的なものだが、名前、家族、友人などは変化することもあり、そういう記憶は失いやすいのだろう。また自己と社会の関係に関する記憶も失いやすい。

つまり人間の脳は、自分にとって重要かどうかよりも、動物としての進化発達の過程によって層を構成していることが感じられる。

自然に生きるということは、通常重要だと考えている、自己と社会との関係を捨てて生きることかもしれない。