都市力と風土力

建築からの文化論を主に、時事評論を加える。

炎と怒り・響きと怒り

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トランプ政権の暴露本『炎と怒り』が話題になっている。

原題は『Fire and Fury』、トランプ大統領北朝鮮に対して発した言葉で、もとは聖書だともいう。しかし筆者(若山)はウィリアム・フォークナーの小説『The Sound and the Fury』(邦題『響きと怒り』)を思い起こした。これは一押しの文学作品だ。アメリカ文化の風土的な奥深さが理解できる。

アメリカ南部の農園を舞台として、主人公が交代しながら連続する「家の物語」(文学的には「サーガ」と呼ばれる)である。しかし「絆」の物語ではない。その家は崩壊の過程にあり、家族は孤独な存在だ。そこには、北部と南部の分断、工業資本と農園経済の分断、黒人と白人の分断、家にすがりつこうとする者と出ていこうとする者の分断が、哀愁をもって描かれている。

アメリカ合衆国において、北部と南部の軋轢はまだ続いている。オバマからトランプへの大統領移行は、南部の白人至上主義者を勢いづけ、南北戦争リベンジの様相を呈しているのだ。

そう考えれば、『炎と怒り』『響きと怒り』、二つの本のタイトルの類似には大きな意味がある。トランプを勝たせたのは、このアメリカの深部に満ちている「怒り」、特に南部の北部に対するそれ、であったのかもしれない。

ちなみに「sound and fury」は、シェイクスピアの『マクベス』の中の一節で、激しい葛藤と後悔のセリフでもある。