都市力と風土力

建築からの文化論を主に、時事評論を加える。

辰野隆と後藤慶二

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東京駅を設計し、明治建築界の法王とされた辰野金吾の息子辰野隆について考えている。

父金吾は謹厳実直、大変な努力家であったことが隆の残したものからも分かる。しかし息子はその反対に軟弱洒脱であったようだ。漱石荷風の影響を受け、フランス文学を専攻し、パリに留学し、東京帝国大学仏文科の教授となった。本人は、フランス文学の業績よりも映画(特に『外人部隊』や『望郷』など)に凝っていたが、この門下から、小林秀雄三好達治太宰治といった文学者が輩出し、大江健三郎は孫弟子である。人間の幅が大きかったようだ。

明治日本を築いた建築家の息子は、大正から昭和にかけて、日本文学の一水脈を形成した。

同時代の建築家として後藤慶二がいる。司法省に身を置いたので、辰野のライバル妻木頼黄の流れだ。漱石に私淑し『ホトトギス』の挿絵なども描いて、また大正を代表する建築論家でもあった。早世したが豊多摩監獄が残され、のちの分離派建築会に大きな影響を与えた。

文学から建築へ、洋風からモダンへという水脈が感じられる